大学教授とベンチャー社長が語る!起業の魅力とは?【前編】
デザイン思考テストを始めたきっかけ
松本:新卒で入社したゴールドマンサックスでは人工知能を扱っていたのですが、AIを知れば知るほど、人間にしかできないことは何かを考えるようになりました。AIは、目的を与えられればそれを解くことはできても、目的自体を創り出すことはできません。だからこそ、人間の価値は人に共感して解くべき課題(目的)を創造することだと思っています。しかし、日本の教育では与えられた課題を解くことのみにフォーカスし、そもそもの課題を見出す能力が育っていないのが現状です。その能力を鍛えるために、海外で見つけたデザイン思考を研究して本を出版したり、アルゴリズムを使って人の気持ちから課題を創造しそれを解決するソリューションを生み出す能力を測れないかと思ってデザイン思考テストを開発・提供したりしています。
土屋教授(以下、敬称略):デザイン思考力をテストで数値化し測定できるだけではなく、受検することで自我や自らができる事ややりたい事を見つけられる可能性がありそうですね。
松本:人間は、物事をパターン化した方が考えなくてよいため楽できるんですね。だから、逆にパターンを外すという創造力(クリエイティブさ)を鍛えることは結構脳にストレスがかかります。創造力を鍛えるのも筋トレやダイエットと一緒で、記録が伸びていくから大変でも頑張れるわけで、ただ辛いだけのことを続けるのはやっぱり難しいと思います。
創造力は後天的なものだと学術的にも証明されているように、デザイン思考テストは適性検査ではなくTOEICのように頑張ればスコアが伸びていくタイプのテストです。なので、頑張った結果がスコアに反映されるということに近いかもしれないですね。
デザインとアートは似て非なるもの
土屋:デザイン思考や創造性ということに関して、「絵でも描かせればいいんじゃないの」という発想をする人が多いのではないかと思います。その中で、金融のバックグラウンドからデザイン思考に行きついた松本さんのキャリアは面白いと感じました。
松本:ありがとうございます。日本ではアートとデザインを混同している人が多くいます。アートは自分の個性などを表現・発信することが目的である一方、デザインは課題解決の手段として用いられます。たとえばロゴを作るとして、アートでは「この色の組合せが好きだからこうしました」となりますが、デザインの場合は「このロゴを見てこういう顧客にこういう気持ちになってほしい」という目的があり、それを表現する手段ということになります。デザイン思考は顧客の課題を解決していくために、本質的に求められる思考法です。そのため、私は興味を持っていますし、日本にもっと広めていきたいと思っています。
大学と企業の違い
土屋:私がいま大学の研究のビジネス化やスタートアップ責任者をやっている中で、社会実装化まで描いている研究者が思った以上に少ないなと感じています。目的を設定せずに単なる問いかけを続けている研究者が多いという意味なのですが、松本さんはこのあたりについてどう考えますか。また、どう修正していくのが良いと思いますか。学府という特殊性もあるので悩んでいます。
松本:企業と大学の違いはまさにそこにあると思っています。企業は誰かの課題を解決しないとお金が得られないし、存在意義がありません。一方で、大学は必ずしも課題を解かなくても、その要素や技術を開発するだけで社会的意義があるんですよね。大学が研究・開発して技術を世の中に出すことで、企業が顧客との課題を連結させるという連携プレーができます。まさにオープンイノベーションですね。
もちろん大学だけで目的設定(世の中の課題の発見)から解決するための技術の開発まで全部やってもいいと思います。ただ、技術を世に出すだけでも社会としてエコシステムが回り一定の役割が果たせるので、それはそれで素晴らしいことだと思います。逆にいうと、企業は短期的な研究、短期的にお金になるものにしかなかなか予算を割けなかったりするので、長期的な学問としての研究というのは大学の強みになるのではないでしょうか。
登壇者:
北海道大学 産学・地域協働推進機構 産学連携推進本部 土屋 努特任教授
スタートアップ創出部門の部門長で、担当分野は大学の研究知財の社会実装及び起業家教育。北海道大学法学部84年卒。現みずほFG前身の信託銀行に入社。10年以上にわたり海外活動勤務を含めた国際金融の第一線で戦った後、96年独立。IT企業を皮切りに硬軟あわせ40社近い会社の設立、資本参加、救済融資などを行いグループを形成。2015年北大に共同研究員として戻り、客員教授を経て現職に就任。
VISITS Technologies株式会社 代表取締役 松本 勝氏
東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマンサックス入社。株式トレーダー、金利デリバティブトレーダーを経て、2010年に人工知能を用いた投資ファンドを設立。2014年に当社を設立し、人の創造性を可視化する「デザイン思考テスト」を独自技術(日米特許取得)により開発。また、企業向け意思決定DXツール「VISITS forms」等、企業のイノベーション・DX支援サービスを幅広く展開。
就職活動を行う中で、一度は起業という選択肢について考えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。HELLO, VISITS北海道大学では、コミュニケーター主催で北大教授とベンチャー企業の社長が起業の魅力について語るイベントを行いました。登壇者は、40社近くの会社の設立や再建を果たした後、母校北海道大学に戻られた土屋教授と、VISITS Technologies株式会社代表取締役の松本です。前編となる本記事では、松本がデザイン思考テストを開発したきっかけや、企業と大学の違いについてご紹介していきます。