外資系金融思考の本質
「強靭なメンタル」が求められるトレーダーという仕事
トレーダーとは、一般的に金融機関で、株式や債券、為替などの売買の取引仲介を行う人のことをいいます。ときに数十億円から数百億円単位の資金の運用に関わる、非常に責任の重い仕事になります。そして、トレーダーという仕事は世の中の多くを占めている「加算的仕事」とは一線を画しているといいます。加算的仕事とは、仕事の成功を加算(+)していき、失敗は加算せず大きくマイナスもしないという仕事です。例えば営業マンが成約するごとに大きく給料が上がる一方、失注しても給料がマイナスされないというような仕事です。
一方トレーダーの仕事とは、時間とは無関係に成果はプラスされ失敗はマイナスされる、そのような仕事です。今まで積み上げてきた成功を数時間でゼロに帰すことも多分にある仕事なのです。スポーツで言うとゴルフのようなもので、今までのホールの成績が良好でも、今のワンホールの成績で最低になる可能性もあるのです。それ故トレーダーには、今まで積み上げたものが一瞬で吹き飛んでも耐えうる強靭なメンタルが必要なのです。
また経営者も自らの選択に駆け引きが求められており、最悪の場合自己破産という可能性もあるという点でトレーダーに似ています。実際トレーダー出身の経営者も多く、Amazon創業者のジェフ・ベゾスやマネックス証券CEOの松本大はトレーダーとして活躍されていた経歴もあります。
金融の世界における「リスクマネジメント」とは
では、優秀なトレーダーはどのように思考し、結果を産み出しているのでしょうか。その一つに思考の本質である「リスクマネジメント」という考え方があります。ファイナンスの世界ではリスクとは不確実性のことを指します(≠危険)。一般的にリスクは大きければリターンは大きく、リスクが小さいとリターンは小さいです。そのようなリスクを考慮して合理的に選択をしていくことがリスクマネジメントです。この選択に絶対的正解・不正解はなく、いかに自らが納得して合理的な選択をし、行動に移すことができればよいのです。
リスクマネジメント思考の第一歩として意識したいことは4点あります。
①数字で考える
たくさん・少ないなどの主観的・非連続的な表現は使わず、数字で行う。例えば、「提出期限までたくさん時間がある」と考えず、「期限まで○日など」。
②時間を意識する
目標に向けて行動する際に、時間を逆算して考えることで余裕を持って行動することができる。例えば「来週までに○○する」と決めるだけでなく、そのためには「明日は××して、明後日は…」と考える。
③順番を意識する
選択肢の重要性・従属性を考え、選択肢をどのような順番で実行するか考える。重要な選択肢や被従属的選択肢は先にした方が良い。例えば、食材を買ってきたとしても調理器具が無ければ料理はできない。この場合調理器具の有無を始めにするべきであった。
④マイナスを意識する
最悪の展開を想定しておくことで、事態がそのような状況に近づいたとき察知・対処することができる。想定「外」の最悪な事態を想定「内」にしておくということである。
以上のような考え方を持つことで、選択を論理的・定量的に詰めることができます。リスクマネジメント思考は、学校では教えてくれないけれども社会の実践では肝となる場面が多く、ビジネス界での成功者の多くはそのような思考法を持っています。
ファイナンスの世界でも重要とされるリスクマネジメント思考とは、マニュアル化された人生がないこの時代、自分で納得した選択・生き方をするための普遍的な方法論なのです。
講師:森山博暢氏
Identity Academy代表理事
1999年ゴールドマンサックス入社。クオンツアナリストに従事したのち 20年にわたり債券トレーディング業務に従事。2015年より日本の金利トレーディング部長を務め、2020年7月 Identity Academy 設立。東京大学大学院工学系研究科修了
https://www.identity-academy.jp/
2020年9月4日、森山博暢氏(Identity Academy代表理事)による「外資系金融の思考の本質とは」というセミナーが実施されました。森山氏は外資系金融という人の流動性が高い業界の前線で20年程活躍される中で、「リスクマネジメント思考」の重要さについて強く感じたそうです。トレーダーとはどのような仕事か、リスクマネジメント思考とはどのようなものなのか、学んでいきましょう。